コート〜後ろ姿〜
耐えられそうになかった。喪失感が大きくなる。

泣いている私を見飽きたのか無言のまま背を向けた。
拓を失うのは考えられない。後ろから拓に抱きついた。
腕が千切れても構わなかった。なにがあっても離さない。

拓は解ってくれる。
私がどれだけ好きか伝えれば解ってくれる。
優しい拓に戻ってくれる。きっと拓は嫌な事があって私に意地悪してるだけだ。私が好きになった拓があんな酷い事を本気で言ってるワケがない。


また、いつもの様に自分に酔い初めている。

だけど、酔いはすぐに覚めた。
左目辺りに衝撃。

後ろに倒れる。
頭がぐらぐら揺れる。
視界が霞む。

なにが起こったか分からなかった。

霞む視界で拓を見た。
拓は背中を見ていた。
『汚ねぇな、鼻水が着くだろ。このコート買ったばっかなんだよ。マジでむかつく。死ねよお前。』

最後の死ねよ以外の言葉は耳を素通りした。

そして理解した。拓は手加減なしに肘を私にぶつけた。

また涙が溢れた。
なにより悲しかったのは言葉でも暴力でもなく、私よりコートを気にかけている事が私を地獄に叩き落とした。
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