夕暮れ旅館
壱.帰宅
「じゃあね」
「バイバーイ」
友達と別れ、再び自転車を漕ぎ出す。空は夕焼け色で綺麗だ。
――早く帰れるのはいいけど、部活がないと味気ないなぁ。
そう、私は高校3年生の受験生で、部活を引退したばかりなのである。
「ただいまーっ」
声をかけて家に入ると、誰もいる気配がない。
――あれ、いつもならお母さんか弟がいるはずなのに。
そう思いながらリビングに入ると、
「おかえり」
聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で言ったのは、父だった。
「お、お父さんいたの!?」
「あぁ」
「今日早いんだね、どうしたの?」
「今夜は旅館に泊まるから」
「旅館!?」
「早く準備しなさい」
ええ、と不満を口にしつつ荷物をまとめに行く。
――それにしても、急に旅館なんて、どうしたんだろうなぁ……。
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