夕暮れ旅館
それから、私は勉強に励み、なんとか第一志望の大学に合格することが出来た。今はその近くで一人暮らしをしている。
あの日から、弟と母親には一度も会っていない。何度か、学校帰りにあの旅館があった辺りまで行ってみたが、そこにはただのマンションが建っていた。旅館があった形跡など微塵もなかった。
そうそう、あのあと自転車もなくなっており、父が新しいものを買ってくれた。弟に会えなくなったのは寂しいが、それは少しだけ嬉しかった。
あれは、本当にあったことなのだろうか。それとも、両親の離婚のショックで私が作り出した幻に過ぎないのだろうか。
今となっては、何もかもあの夕焼けの中に置いてきてしまったのが悔やまれる。
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