夕暮れ旅館
「じゃあ、学校とかは……?」
はっきりしない頭で、何故かこう聞いていた。
「うーん、それよりもね、」
そう言いながら、母は口を大きくあけ、喉に手を入れて奥から団扇を出して仰ぎ始めた。これも桃色と白で、格子模様である。
私と弟はあまりのことに口をあんぐり開け、ジェスチャーで『口から団扇だした!』『団扇!』と驚きあった。
しかし女は容赦なく続けて言った。
「それより、これからはあの人がお父さんだから。」
女の指さす先には一人の恰幅の良い男がいた。私達のものより一回り大きな台につき、ゆったりと料理を食べている。
浮気。離婚。新しいお父さん……。
言葉が頭の中を交錯し、私と弟は瞬時に理解した。
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