キミノカケラ〜群青色の空と君と〜
お父さんに案内されて、私達は心臓外科病棟までやって来た。
一階のロビー、外来とは全く違う。
静かで、何処が厳粛な雰囲気が漂っていた。
「並木。こっちだ」
心臓外科病棟のナースステーションの前に着くなり、すぐに一人の医師が哲二さんに声を掛けた。
「おお、原田。元気そうだな」
「並木もな。金子さんもご無沙汰してます」
菜摘さんは「お久しぶりです」と頭を下げると、“金子”は菜摘さんの旧姓だと教えてくれた。
そう、この原田先生というのは、哲二さんの元同僚の心臓外科医。シュウの担当医だ。
「菅野先生?どうしてここに?」
「心臓外科病棟まで案内してもらったんだよ」
原田先生の問いに、哲二さんが答える。
お父さんも「お疲れ様です」と微笑んだ。
「お父さん、ありがとう。もう此処で大丈夫」
「ああ。じゃあ、父さんは仕事に戻るな。今日は少しでも会えて嬉しかったよ」
お父さんは私の頭を遠慮がちにぽんっと撫でると、哲二さんと菜摘さん、原田先生に一言挨拶してエレベーターに乗り込んだ。
お父さんは遠慮がちだったけど、頭を撫でられるの、嫌じゃなかった。
置いてったことはまだ完全に許せないけど、お父さんが私を大事に思ってくれてるのは凄く伝わってくる。それに、根本は私もお父さんに会いたくて、捻くれたファザコンみたいな所があったから。
だから、不思議と嫌悪感はなかったんだと思う。
でも。お父さん、ごめん。
旅行から帰ってきたらすぐに一緒に暮らそうって連絡しようと思ってたけど。
でも、また当分出来なくなっちゃった。
私の中で、シュウは何よりも大事で優先だから。
シュウが元気になるまで、私はお父さんのこと考えられないし、シュウのこと以外考えたくない。
「ごめんね。もう少し、私に時間を頂戴……」
閉まるエレベーターの扉。笑顔のお父さんが完全に見えなくなると、私は扉の向こうにいるお父さんに向けて呟いた。