キミノカケラ〜群青色の空と君と〜
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緑色の重厚なドアの前で立ち止まること数分。毎回毎回、このドアを開ける時は気分が憂鬱になる。
このドアの先は地獄以上の地獄。
本来、何処よりも心休まる場所になるはずなのに、私にとってはこの世で一番大嫌いな場所だ。
だけど、ここしか私には帰る場所がない。
私は何度目かわからない重苦しい息を吐くと中の様子を確かめるように静かにドアを開いた。
「……またか」
玄関には十センチ程の高さがあるハイヒール。そして、男物の革靴が無造作に脱ぎ捨てられている。
たまにしか帰ってこない母親。今日も男を連れて来ている。
靴からするとまた別の男だ。この間の男は革靴を履くような人じゃなかった。
私はやけに静まり返った廊下を忍び足で進むと、自分の靴を持って物音を立てないようにそーっと自室に入った。
母親が家にいると、私はいつも四畳半の狭い部屋で息をひそめるようにジッと時が経つのを待つ。