キミノカケラ〜群青色の空と君と〜
なるべく顔を合わせない。特に男を連れて来てる時に私が家にいるとマズイ。
母親は自分に子供がいることを男に言ってないんだろう。
以前付き合っていた男と家で鉢合わせした時、男は私を見るなり、え、と困惑した表情を浮かべ、「子供…いたんだ……」とそそくさと母親を置いて帰って行った。
慌てて男を追いかける母親。
だけど、無情にも閉まるドア。
振り返った母親は私を憎しみと怒りの目で睨みつけ、私に花瓶を投げ付けた。
その時に出来た頭の傷は、髪の毛で何とか隠しているけど、今もそこだけ髪が生えず痕が残ってる。
母親が私に手をあげるのは、この時が初めてじゃないけど。
とにかく、何事もなくやり過ごすには身を潜めるのが一番良いんだ。
ーーーギシ……!
「…っ……」
隣りの母親の部屋から微かな物音と、母親が女に変貌した気色悪い声が聞こえてきて、私は咄嗟に両耳を手で覆った。
部屋の隅で小さく蹲る。
この家は古い団地の一室。テレビの声など微かな物音でさえも聞こえてくるほどの薄っぺらな壁。
更に家が静まり返っていると、聞きたくないものも嫌でも聞こえてくる。
昔は母親と父親の言い争う声。
今は母親と見知らぬ男の情事の……
頭の傷痕がヒリヒリする気がする。
気持ち悪い、気持ち悪い…気持ち悪い……っ‼︎
私は目をぎゅっと瞑って、その時を待った。