キミノカケラ〜群青色の空と君と〜
「お母さん!少し落ち着きましょう。娘さんが夜出歩いてた理由も聞いて、よく話し合ってください」
女性警察官は今にも私に掴みかかりそうな母親の両肩を抑えながら宥めるように言う。
だけど、それは逆効果で。
母親はその手を振り払うと、今度は女性警察官をギロリと睨んだ。
「うっせぇな‼︎関係ねぇだろ!こいつのせいで私の人生どんだけめちゃくちゃになったかあんたにわかんのかよ⁉︎」
「た、鷹野さん!」
「こんな奴、産まなきゃよかった。今すぐ私の前から消えろよ」
そう言って、母親は警察署を一足先に出て行く。
冷えた廊下に響く母親のハイヒールの足音が消え、シンと静まり返る署内。
女性警察官は母親に圧倒されて、言葉を失ってるようだった。
「……ご迷惑をお掛けしました」
そう言って、頭を下げる。
ハッと我に返った警察官は、気まずそうに「鷹野さん…」と私を呼んだ。
「その……大丈夫?」
「大丈夫です。いつもの親子喧嘩なんで。母は女手一つで私をここまで育ててくれて。仕事で色々大変なんですよ。それで、お酒入るといつも口悪くなるんですけど、本当は凄く優しいんですよ」
「本当に?辛い思いしてない?」
「してません」
「でも、」
「それじゃ、私、母を追いかけますんで失礼します」
最後は女性警察官の目を見ず、頭を下げて逃げるように警察署を出た。
角を曲がり警察署が見えなくなったところで足を止める。
もう母親の姿は、見渡す限り何処にもない。