王の約束
乾いた心ー王の約束
分厚い黒雲は力強い太陽ごと、空を覆い隠している。じっとりと湿った空気の中、わたしは降りそうで降らない空を見上げていた。
悲しい。
だが涙は出ない。
雨を待ちわびている大地はまるで、わたしの渇ききった心と同じ。潤いなど存在しない。
存在するは、勝利という言葉のみ。
すべてが散っていった。命はわたしの手からするりと抜け出て、亡骸のみが渇ききった大地に横たえる。
残ったのは、わたしと、僅か数名の従者のみ。
何処か遠くで雷が鳴っている。
梅雨の時期は近い。
やがて黒雲が広がった空からは、ぽつり、ぽつりと水滴が落ちてきた。
「雨だ、雨だ!」
従者たちは口々に声を出し、喜々としてそう告げた。
――ああ、どうか空よ。涙を流せぬわたしの代わりに、散っていった強者たちの魂を弔(とむら)ってやってくれ。
わたしの頬を伝うは、ただの雨。
王たるわたしはけっして涙を流さぬ。
冷酷な王だと蔑(さげす)まれても良い。それでもわたしは前に進まねばならぬのだから。
乾いた大地を叩く、天から降る雨粒の音が鎮魂歌となろう。この地を去った勇者の魂たちよ、どうか安らかに眠ってくれ。
わたしは今、汝(なんじ)らに約束する。
渇ききったこの大地を、必ずや緑で覆い尽くして見せることを――。
王の約束だ。けっして違えはせぬ。
わたしは剣を胸の前で握り閉め、目を閉ざす。
瞼の裏に見えるは、緑が生い茂り、水が潤す楽園。田畑を耕し、笑い合う人びとの姿だ。
**END**