4番青年の快走
「……そんなの、簡単なことじゃないか」
か細く伊吹が言ったあと、最初に声をあげたのはユウジだった。
そうか、お前はそうしたかったのか。
それならば伊吹、お前のために。
「先生、……伊吹を家に連れて帰っていいですか」
「だって。どうする、伊吹くん?」
きみの人生は、きみが決めるんだ。主人公はきみなんだ。人生のシナリオは本来、すべてきみが書くべきなんだ。
家族の望みでも医師の勧めでもなく。きみが。
「かえりたい」
確かに、空気を揺らした伊吹の声。
こいつはここにいる。
自分の意志で生きている。
ふたたび自分で、人生を描き出した。
そこからは早かった。一刻も早く伊吹の願いを叶える必要があった。
支度をして環境を整えて、準備はすべて急ピッチで進められた。
伊吹が病室から家に引っ越す直前も、茅野先生は最終確認を忘れなかった。
家に帰ると言うことは、医師や看護師のそばを離れるということ。
「我々がいないうちに容態が急変して、亡くなるということも充分にあり得ます。それでも、いいですか」
ユウジとミユキは何度も頷いた。
「それでも最期は、本人の自由にしてやりたい」
なんたって伊吹は、橘家が生んだハイパー自由人なのだから。