4番青年の快走
その夜、伊吹が吐いた。
短く息をして肩を揺らしながら、トイレで。
ほら見ろ。消化できてなかったじゃねえか。
やっぱまだ帰らなくてよかった。背中をさすってやりながらそう思う。
「……うっへぇ、すげえ吐いた」
「出きったかよ」
「ウンコみたいに言うんじゃねえよ」
「誰がウンコだ」
「言ってねえ」
分かってた。きっと本人がいちばん。
そう望んだときも食ってる最中も、こうなることは分かってたんだろう。
「母ちゃんの料理うまかったなー」
それでも。吐いてでも食べたいと。
願ったこいつが、このバカが、便座の前に座り込みながらそう満足そうにぬかすので、まあ、これでいいとしよう。