4番青年の快走
7月17日
「お、小麦じゃん久々」
ミユキさんに通されて伊吹の部屋を訪れたら先客がいた。
茅野先生と看護師さんふたり。
玄関にくつがあったから分かってたけど。
「そうでもないでしょ。先生、看護師さんこんにちは」
「こんにちは小麦(こむぎ)ちゃん」
「むぎ冷てえ」
「ははは」
伊吹はふざけるときあたしのこと“むぎ”って呼ぶ。
みんなが周りに集まってるベッドに近付いていくと、いつもの伊吹のにおいがした。
「それじゃあ伊吹、これ薬。渡したからな。忘れずに」
「あーい」
「痛いときにはこっち。レスキュー」
「れすきゅー」
もらった薬を見て繰り返す伊吹。これ、あとであたしからもミユキさんに伝えよう。先生からも言ってもらわなきゃ。
なんたって伊吹はどうしようもない記憶力ゼロ男だから。
「先生、いまミユキさんお茶用意してるんだけど、薬の説明あとでミユキさんにもしてくれる?」
「ああ、もちろんもちろん。小麦ちゃん気が利くね」
「だろー」
「……なんでアンタが得意気なのよ」
「自分の女ジマンしたっていいじゃねえかよ」
「“元”でしょふざけんな」
軽口を叩く伊吹を一刀両断してやれば、茅野先生が目を細めて微笑んで看護師さんふたりがクスクス笑う。「ほんと仲良しね」って。
そうですね、驚くほどに。