4番青年の快走
「でも俺元カノでここまで仲いいの小麦くらいじゃね」
「でしょ。感謝して」
「サンキュー」
「どういたしまして」
こういうこと言うし、どこまでもマイペースで勝手で人の話聞いてなくて。
「でもフツーに考えて俺よりいいヤツいっぱいいると思う」
「知ってるつってんでしょ勘違い男」
それでも、なんだか放っておけなくて。知りたくなるのよ、みんな。アンタのことを。振り回されてもいいって、思ってしまうのよ。
魅力的、ってやつ?
「あっ。でもダメだぞ朔は!許さねえからな!」
「……ホンット、アンタにそんなこと言われる筋合いないわ」
「あ!?あいつ狙ってんのかよお前」
「狙ってねーわよ。ウルサイ」
元カノ軍団とだって。
悪口も言うけど、しょうもないクソ野郎だけど、どこか憎めないヤツだってみんな分かってる。分かってて言ってる。
悪口以上に、本当は、好きなところ、も。
とか絶対言わないけど。
ゆっくり、伊吹が上半身を起こした。木々の葉の間を、風が通り抜ける音がする。
「小麦」
「……なに」
「俺いちお病人だから激しいことはできねえけど」
「求めてねえよクソ男」
何を言い出すのかと思えばこいつ。
病人であることに感謝しやがれ。違ったら完璧タコ殴りコースだった。
「けど、チューくらいならいいよ」
そう言うと伊吹は、面白そうに口の端をつり上げて、肩越しにこっちを振り返った。