4番青年の快走
7月11日
「うおー。すげえ夕焼け。ひっさびさに見た」
芝生と木々、風、その向こうの灯台と、そのまた向こうの夕日を、目を細くしながら仰ぐ茶髪。
「自分家なのにこの景色見んの久々ってウケるな」
「ウケねーよ別に」
ふはっと笑う茶髪頭に半笑いで返しながら俺も窓の外に出た。
うわ、まぶしい。
茶髪頭、橘伊吹(たちばないぶき)の家の裏にはこんな自然が広がっている。
玄関と反対側から外に出ると、広い丘。
昔から伊吹の家に来てはここで昼寝をしたり喧嘩をしたり黄昏たり。
俺らの成長をいちばん見守ってきたであろう場所。
「どうだよ待ち焦がれてた景色は」
「えー、クソ綺麗。マジ感動涙でそう」
「頭わるすぎて台無しだわ」
窓枠に腰かけて知性のかけらもない言葉をこぼす伊吹の口も目も鼻も耳もぜんぶ、オレンジに染められていた。
たしかに、きれいだ。
「……夕焼け似合うな」
「マジ俺?どうよ元ヤンぽい?」
「暴走族やってたやつが元ヤンとかかわいこぶってんじゃねえよ。もっとタチ悪かったろ」
「てめえも人のこと言えねえだろ」
その笑い方、昔から変わってなさすぎな。
十代の後半そんなことしてた俺たちも成人してからは落ち着いてみた。ブンブン言わせないし見た目もやわらいだけど、全然。
成人って案外まだ若い。
自覚ないまま歳だけとりましたって感じだ。
生ぬるい風が吹いた。