4番青年の快走
“家に帰りたい”とベッドから降りようとするから、縛られて、ベッドにくくられて、眠らされて、そして、意識障害だと言われて。
みるみる顔色がなくなって痩せ細って声が出せなくなっていく伊吹を、間近で見ていた。
瞳に光はなかった。
あたしは、目をそらすことしかできなくて。
「本人が望むのなら立派な“医療”ですが」
颯爽と現れて、いとも簡単に伊吹の本音を喉の奥から引きずり出した茅野先生は、いつか言っていた。
「本人が望まなければたった薬一粒でも、立派な拷問です」
……伊吹の笑顔がまた見れた。
声が弱くなっても動きや話がゆっくりになっても、また光を味方につけてキラキラ笑ってる。
あたしは柄にもなく「写メ、とろ」なんて言って、寄り添って。緑色の木陰を背景に、この瞬間を写真に残したのだった。