4番青年の快走
駆け寄って、身体の横にかがみ込んで。肩をゆすった。
「……あ、れ……あかねさん、?」
「っ」
目が開いた。うすく、ゆっくり。
掠れた声であたしの名前を呼びながら、伊吹はひどくゆるい動きで上半身を起こす。やがてトン、と幹に背をあずけて、覚醒したばかりで頭が痛いのかうなりながら眉間をおさえた。
「よ、久しぶり」
寝てたのか、なんだ。ここ、いい風あたるもんな。
「びっくりしたぁ。紅音さん久しぶりっす」
がしがしと頭を撫でながらペットボトルを押し付けてやる。
細くなったし、白くなったな、やっぱり。
「えっありがとう紅音さん」
頭をまぜられながら受け取ったコーラに目を落として、伊吹は笑った。
差し入れ。コドモ舌なお前に。
「何してんの、こんなとこで」
「空明るいのに月でてんなーって」
「おぉ、月を見上げられるようになったのか」
丸くなったなあ、お前も。
伊吹の隣に腰を下ろしてあぐらをかく。お、いい風。いい空。
ぼうっと空を見る伊吹のほおに、風でなびいたあたしの髪があたって。
「ブハッ。やめて紅音さんくすぐったい。なんかいいにおいするし」
ヒィと腹を抱えながら伊吹が吹き出した。
なんでだ。なんであたしからいいにおいして笑ってんだこいつ。なんつー失礼なクソガキだ。
このやろ。