4番青年の快走
『身体に良いこと、悪いこと。それを忘れれば、周りが本人にしてあげられることはたくさんあるんだ』
あの悠真でさえ、苦い顔して飲み込んだ言葉。
歳下の我が儘を放っておけないあたしの性分のせい。だって伊吹が、悔しそうに目を潤ませたから。「ねぇ紅音さん、」って。
お前、あたしがその顔に弱いって知ってんだろ。
あたしならおねがい聞いてくれるって。
おねだりしたらため息つきながらも聞いてくれるって。
お前、ぜんぶ知ってて言ってんだろ。
しょうがねえクソガキだな、まったく。
「おっ、灯台ついた」
掴まる力は、弱い。
今にも振り落としそうでそれはさすがに怖いから、走るスピードはかつてないほどゆっくり。
「おっせえ。こんな安全運転できたんすか紅音さん」とか口を尖らせて不満げな伊吹に、これだけは譲らないと言葉をかぶせた。
景色見るんならゆっくりでいいだろと。
他の車もバイクもないこの静かな道でこのスピードなら、お互いの声だって聞こえる。
聞き逃さないのにちょうどいい。