4番青年の快走
「面と向かって死のことを考えてるヤツは、死ぬことがこわいことだなんて思わない。……知らないから、こわいだけなんだよ」
こういうことか先生。
知らないうちにいつの間にか、やっぱり伊吹は大人になってた。月も見られるくらい落ち着いて、ちゃんと考えられるようになってた。
あたしはこえーもんな、まだ。
「う゛おっ!?」
「伊吹」
「なに紅音さん!急に止まってびっくりした!」
道に自分たちしかいないのをいいことに急ブレーキをかけてくるりと振り向いた。ヘルメットをとるあたしにつられて、伊吹も困惑しながら顔を見せる。
……顔、は、そんなに変わらないのに。
髪色は落ち着いたけど、雰囲気とか全然変わらないのにな。
肩ごしに振り返ってじっと見てると首を傾げる伊吹。
「……なあに、紅音さ」
「でっかくなったなあ、お前」
口を開くのと同時に、くしゃりと頭を撫でてやる。とびきり甘やかした声で、この気持ちをこめて。
「がんばったなあ、いっぱい」
な、伊吹。
あたしより頭ひとつでかくても、本気出せばあたしより力が強くても。
「なっななに、紅音さん……っ」
お前はいつまでもかわいい弟分で、そんなやつの成長はな、これから先どれだけ経っても何があっても、嬉しいんだよ。やっぱり。
「おーおー照れてる。めずらし」
「もー、っなに、マジで。もーっ……」
「ヘルメットかぶんなよ撫でられねえだろー」
「いいから。早く出してください、バイクっ」
「チッ」
成長も頑張りも、見てるから。知ってるから。
で、応援してやるから。誰よりも。
だからお前は安心していつまでも自由に正直に、のびのび生きろ。
自分の好きなように。