4番青年の快走
「来てくれてよかったな」
「俺が呼んだんだから来てくれるだろあいつは」
「お前のそういうところマジいい性格してると思うわ」
「急に褒められたー」
褒めてねえけど別に。
これで一通りって感じ。伊吹があの日やりたいって言ってたこと。この調子だし、次は何したがるか分かんねえけど。
でも俺らはたぶん、こいつがやりたいって言ったこと全部やってやるんだと思う。だってこいつが望むことなんだし。
全員、なんか甘いんだ、こいつには。
「朔」
いつもより少し硬い伊吹の声が、耳に届いた。
もう、分かる。
伊吹の声はまたか弱くなって、笑うのもへらっと息を吐くだけになって、声を出すために息を吐くために腹筋に力を入れるの、ちょっと辛くなってきたんだなって。
だけど分かる。こいつの声の色。
もう何年聞いてきたと思ってんだ。
「俺さあ」
硬い声。だけどきっと表情は柔らかいんだろう。目も頬も、昔からは考えられないくらいやさしく力が抜けてるんだろう。
立ってる俺が座ってる伊吹の顔を、それを確認するためにわざわざのぞき込むことはないけれど。
「俺な、もう死ぬのこわくねえよ」