4番青年の快走
仲間たちが集う緑の丘を見渡す伊吹の視線を追ってみた。
穏やかな横顔。最近よく見せるようになった顔。
バスケで4番背負ってた頃よりもバイクで好き勝手やってた頃よりも、ずっと大人びていてゆるんだ表情。
視界には、世間で言う“青春”の日々の、大半を一緒に消費した連中。
そんなクソガキを、ずっと家で出迎えてたユウジとミユキ。
夏の景色と清風と、ずっとこの家を取り囲んできた木々たちと、滲む夕焼け。
家族と仲間と見慣れた情景と。
「朔、俺さあ」
「おー」
少し掠れた声が鼓膜を揺らす。
ふと、伊吹の表情を見てみた。
とびきり嬉しそうに目を細めて。
少し困ったように眉を下げて。
くすぐったそうに声を揺らがせて。
「俺、すげぇ幸せ」
伊吹は、言った。
初めて、言った。
初めて、聞いた。
────幸せ、か。そうか。
瞬間、頭が回る前に俺は動くしかなくて、それしかできなくて、体が、勝手に。
「うお痛えっ。なんだよ急に!」
「……なんでもねえな」
「はあ?」
しょうがない。普段はぜってえしないけどこんなこと。しようとも思わないけど。今回ばかりは、しょうがねえ。思わず抱きついたって。