4番青年の快走
また、幼いころから一緒に成長してきた景色に見いる。
陽が、木々に隠れた。オレンジ色が葉のすきまからこぼれてくる。さっきより温度の低い風がふたりの間を抜けていった。
耳をすませば隣近所の家から聞きなれた子供たちの声や生活音が届く。風にのってくるのは木々の緑と家庭の夕飯のにおい。
きれいだ。
ここは病室よりもホスピスよりも理想的な空間。
伊吹にとっていちばん環境のいい場所。
そりゃあ伊吹も“家に帰りたい”と、第一に望むわけだ。
やがて息子たちを呼ぶミユキの声が聞こえた。「ごはんだよ」って。伊吹が待っていた声。
「行こうぜ伊吹」
ミユキに返事をして、足もとに座っている伊吹に向き直る。さっきの体制のまま、動かない。
「伊吹」
屈んでその顔をのぞきこんだ。まぶたが閉じている。
……少しの間、話さないでいたもんな。
「伊吹、起きろ」
「……う、」
「メシだって、伊吹」
「んん」
「ミユキが呼んでる」
頬や肩を軽く叩きながらゆっくりそのまぶたが上がるのを待つ。気長に、伊吹が戻ってくるまで。意識が向くまで、呼んだ。