4番青年の快走
「ウッマイ」
デミグラスのハンバーグを前に、伊吹の瞳は光り輝いていた。紛れもない、いつものミユキスペシャルだ。
ミユキは料理が上手い。
「おかわりならいっぱいあるからね」
「マジかよそんなにかよ!食いきれねえ!」
「残ったら俺が食うから心配すんな」
「ハァー?メタボるぞ中年親父」
「あん?まだまだ若えんだよこっちもよ」
テーブルを挟んで火花を散らすユウジと伊吹。いつもだ。この親子はいつも何かと競いたがる。
そのふたりを笑顔でスルーし、俺の皿にひとつハンバーグを追加してくるのはミユキの得意技だ。
「同じ顔してうるさいわね。ハイ朔にもうひとつ~」
「さんきゅー」
「おい待てよ朔セコいぞてめえ!」
「ミユキィ何してんだよ旦那より朔野郎かよ~~」
「お黙り。まだいっぱいあるから行儀よく食べなさい、ふたりとも」
ミユキはマイペースな笑顔で人を振り回すのがうまい。こういうとこ、完璧に伊吹に遺伝してる。
チッと舌打ちをしながら再び食べ始める男ふたり。顔は完全ユウジ似だ。
二重なのに目と眉毛の間が狭くて目付き悪く見えるところとか憎めない八重歯とか。そっくり。
伊吹が好物を食べきるのに前の倍以上は時間がかかった。
それでもそんな時間の差を感じさせず会話は続く。相も変わらずにぎやかだ。
食べている間中、伊吹は「ウマイ」を連発し、それを聞くミユキは嬉しそうで、ユウジは満足げだった。