4番青年の快走
家に帰りたい
風呂に入りたい
母ちゃんの手料理が食べたい
またバスケがしたい
バイクに乗りたい
タバコが吸いたい
みんなでバーベキューがしたい
どれもあの日伊吹が、力なく笑いながら願ったことだ。
病室のベッドの上でぐったりしていた伊吹のために、調べて調べて、ユウジとミユキがやっと見つけてきた医師。
茅野(かやの)先生は、変わった人だった。
今よりもっと声が出なかった伊吹と始めて会って挨拶したとき、「きみの話をしてください」と言った。
どの治療がいちばん伊吹に合っているかとか、今後どうするとか、そんな話はしなかった。
「きみはどんな人ですか」
坊主頭の先生は淡々と、寝たままの伊吹に質問した。その笑みは何か探ろうとしているわけでも裏がありそうでもなく、「教えてください」その言葉のまま。
「……暴走族に、いた」
「うん」
「いろんな、人たちに……囲まれて、る」
「うんうん」
「……バイク、乗るのと、……バスケが好き、で」
「うん」
最初は呼吸音にかぎりなく近かった声とも呼べない声が、だんだんしっかりした音になって鼓膜を揺らした衝撃を、俺は今でも覚えてる。