4番青年の快走
「なんつーか口の中にコケでも生えたみたいなさあ」
「あーうん、それね」
「とにかくクソ喋りにくいんだわマジで」
「そっか」
「先生その坊主頭イカしてんね」
「ははっ、ありがとう。よく言われる」
いつの間にか寝たきりだった伊吹がベッドの上にあぐらをかいて、笑っていた。
やがて俺は、ユウジとミユキがこの先生を伊吹のもとに呼んだ理由が分かった。
痛いほど戦って抵抗する伊吹を近くで見てきて、心のどこかでそう思っていた。
だけど俺じゃ、ただの幼なじみの俺じゃその決断をすることなんかできなくて、毎日小さな声で“負けんながんばれ”って定型文みたいに応援することしかできなくて、ずっと、
ずっとずっと、伊吹はがんばっていたのに。
やっと、ユウジとミユキは気付いたのだ。
「私は家族より何より、本人の意志を徹底的に支援しますよ」
茅野先生ははっきりそう言った。
ベッドを囲むユウジとミユキと親戚と俺と、ベッドに座る伊吹の前で。
「さあ、きみはどうしたい?」
茅野先生はまっすぐ、長い前髪の間から両目を覗かせている伊吹に問いかけた。