4番青年の快走




「なんつーか口の中にコケでも生えたみたいなさあ」

「あーうん、それね」

「とにかくクソ喋りにくいんだわマジで」

「そっか」

「先生その坊主頭イカしてんね」

「ははっ、ありがとう。よく言われる」



いつの間にか寝たきりだった伊吹がベッドの上にあぐらをかいて、笑っていた。

やがて俺は、ユウジとミユキがこの先生を伊吹のもとに呼んだ理由が分かった。



痛いほど戦って抵抗する伊吹を近くで見てきて、心のどこかでそう思っていた。

だけど俺じゃ、ただの幼なじみの俺じゃその決断をすることなんかできなくて、毎日小さな声で“負けんながんばれ”って定型文みたいに応援することしかできなくて、ずっと、

ずっとずっと、伊吹はがんばっていたのに。



やっと、ユウジとミユキは気付いたのだ。




「私は家族より何より、本人の意志を徹底的に支援しますよ」




茅野先生ははっきりそう言った。


ベッドを囲むユウジとミユキと親戚と俺と、ベッドに座る伊吹の前で。




「さあ、きみはどうしたい?」




茅野先生はまっすぐ、長い前髪の間から両目を覗かせている伊吹に問いかけた。





< 9 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop