千代紙の小鳥
あの日のあの不思議な出来事は、今でも鮮明に覚えています。
時間ごと切り抜いて大脳皮質に直接保存したかの如く。
長い長い年月が流れた今でも。
鮮明に、確実に。
現象も、心の痛みも、導く光も。
「 は、な・・・」
舞い散る桜の花びらに消された、
いくつもの方向から吹く風に消された、
真後ろから聞こえてくる息に消された、
地面との摩擦音に消された、声が。
手を重ね合うまであと、少しという刻に。
一瞬だけ全てが無色、無音になった刻に。
白藍の光が地上から空へと舞い上がる刻に、
貴方が私の名前を零す声だけが響いたことも。