千代紙の小鳥
聞かされたその日は、その方が褒めて下さった顔を涙で塗りたくり、声を嗚咽で嗄らしました。

けれどその次の日に貴方が憂色をありありと浮かべながらも「折角の美貌と美声が台無しだな」そう言ってくれたので無理やりにすることは止めましたが。


それでも一人になると暗涙が流れて、塞いだ口から声が洩れていました。

「リュウジ、あのね」

「ん、?」

私は一週間程前から貴方にその事を伝えようとしたのですが、何故かいつも誰かの声にかき消されてしまって。

「花ー!、龍くんー!、おはよう!!」


「河合おはよう」

「あ……杏おはよう」


もちろんあの日も例外ではなく、後ろから走り寄ってくる友達の声に、かき消されてしまいました。

「昨日さー、最悪だったんだよー!花と別れた帰りに───…」



今回視すれば、せめてあの日のあの瞬間だけでも「ごめん、今リュウジに大事な話があるから後でね」

そう言えていれば、私達の未来は違っていたかもしれませんね。


そう言えない弱い私は、三人並んで歩いている間、貴方に後ろ髪ばかりを見せて時たま感じた視線からも、言う事からも逃げてしまいました。
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