千代紙の小鳥
人は、いつまで無垢でいられるのだろう。

もちろん期間もきっかけもそれは人それぞれで。



「ママッ…」「ママッどうしたの?」


語尾に伸びのないその声は、カチカチ、と歯と歯が小刻みに当たる音と共に弱弱しく部屋の空気に溶けてゆく。

彼らの目の前で突如倒れた母親は、機械の様に冷たい身体から異常なほどにふきだしてくる汗で、その綺麗な顔を、肌を、衣服を湿らし濡らしてゆく。



「ただいまー…」

「「パパッ!!!」」

「、!どうしたんだ!?」

「「…ママがッ!」」

「おい!十六夜!!」


その後、父親が呼んだ救急車に運ばれ病室で眠る母親の状態が分かるまであと、25分。


 自分たちの存在を知るまで―――・・・あと、52分
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