千代紙の小鳥
「もしもし、」

〈――――――、――――?〉

「救急です。家で家内が倒れてるんです!」

『―――――――――――?』

「いえ、私は今帰宅して、子供が傍にいたの様なのですが、倒れたのは数分前みたいで…」

『――――、――――、――――――?』

「えっと…意識はない、です。呼吸は――…」


彼らはスーツのポケットから取り出した携帯端末で救急隊員と思われる人に状況を説明し、救急要請のため意識や呼吸、住所や指示を電話越しに聞かれたり伝えられている父親の腰辺りのズボンを、両手でしがみつく様に掴んでいた。


(どうしたの?ママ)(起きてよママ)

未だにカチカチと音を鳴らす歯と歯の間からは、音のない呼吸だけが漏れる。


『――――――、――――――。』

「はい、わかりました。お願いします。」

タン、と大きな液晶画面の終話ボタンを押した後、父親がずっとしがみついている我が子二人の頭に大きな手を乗せた。

「今から救急車がママを迎えに来てくれる。
 
 すぐにピーポーピーポー、って音が聞こえてきて病院に連れて行ってもらえるからな。」

「ママ、びょう気なの?」「しんじゃうの?」

「大丈夫。お前たちも一緒に行くから取り敢えず顔洗ってこい。」

「「・・・はい」」






 知るまで―――・・・あと51分
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