千代紙の小鳥
二人でお立ち台に登って同時に顔を洗い、同じタオルで顔を拭き終えた時。両親にダメと言われながらも通り過ぎると手を振ってしまう白い車のあの音が、だんだん大きくなりながら聞こえてきた。
「「きゅうきゅう車だ!!」」
赤い梯子のついた車、赤いランプの付いた白と黒の車、赤いランプの付いた真っ白く四角い車。
この三種の車は、双子にとってヒーローの車なのだ。
この車にのった人たちが街の安全を、人の命を守ってくれる。この車が来れば皆が助かる。
無垢な彼らは何の疑いもなく、そう思っている。
「パパッ!!きゅうきゅう車の音!!」「ママをむかえに来てくれたんでしょ!?」
不安を一瞬で払拭してくれたその音は、リビングの窓から赤い光が見えた瞬間に聞こえなくなり、代わりにバタバタとした音がしたかと思えば、家のインターホンが鳴り響いた。
「「来た!!ぼくたちが出る!!!」」
「あ、こら!」
インターホンの液晶ボタンを押そうとした父親の傍を通り過ぎ、双子にとっては重厚な玄関扉を二人がかりで開けると、水色の制服に身を包んだ若い救急隊員が一人。
「こんばんは。お父さんいる?」
扉に両手をついたままコクコク、と勢いよく首を上下に動かすと「あ、すいません。どうぞ。」と父親が救急隊員に声をかけた。
「失礼します。ごめんね通るよ。」
その後もう二人の救急隊員が担架や四角いオレンジ色のバックを持って、丁寧に靴を並べ脱ぎ、双子に小さく笑みを零した後リビングへと向かって行った。