千代紙の小鳥
題名の書かれていないそれを開くと、見覚えのあるものが一つ一つ丁寧に透明のフィルムに挟まれていて。
(ふうん)
何時もなら両手で持つ本を、今日は机の上に置いて一つ一つをじっくりと見ていく。
「はい、おまたせ。」
「ありがとうございます」
「ん?珍しいね今日は写真集なんだね。」
「写真集というか、友人がとったこの街のアルバムですよ」
相変わらず美味しそうな香りを漂わせる珈琲を運んできてくれたマスターは、そのアルバムを横から覗き込んできた。
「あ、本当だ。見覚えのあるものばかりだ。」
ぱらり、ページをめくると。
「お、ここも撮ってくれたんだね。」
錆浅葱の屋根の上でシンボルと看板二つの役目を担っている本物のそれが、風向きを知らせている喫茶店《風見鶏》。
「本当だ。やっぱり五十年も経ってるとは思えないですよね」
「ありがとう。そう言ってもらう度に開いて良かったなと思うよ。」