強引な彼との社内恋愛事情
「……好きな……好きな人が出来たんで忘れられたんです」
「まさか広重?」
「違いますよ」
「会社の奴?」
「はい」
「誰?同じチーム?」
「それは言えませんけど」
「教えろよ。そんな面白い話。俺、口堅いし」
「教えるわけないじゃないですか」
「そう」
「ただ。すごく感謝してます。私が……私が、元彼のことで陰口叩かれたりしても、その人は変わらなかったし。
むしろ、気にかけて貰ってました。
嬉しかったんです。彼女がいても。
私のこと、部下としか思えなくても。
おかげで、今ここに居れるんだと思ってますから」
「へー」と、タバコの煙をプカプカ浮かばせる。
「田原さん」
「ん?」
好きの代わりに言えることってあると思った。
「ありがとうございます」
目を丸くしたあと、クッと口角をあげた。
気まぐれだろうけど、田原さんの手が伸びて、私の頭を優しく撫でた。
それが返事で。十分だと思った。