ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
ワケありウェディング
明るい太陽に向かって真っ直ぐ聳える尖塔で、鐘が鳴っている。


秋晴れの空の下。
空気は透き通って凛としていて、厳かに響き渡る鐘の音を聞いていると、心が洗われるようだ、と思う。


こんな音色に包まれて、生涯の約束を誓い合ったりしたら、極上の幸せを手に入れたような気分になる。


そう、極上の幸せを。


背後から、突き刺さるような視線を感じる。
目を伏せてから、私は気付かれないように、後方に目線を流した。


煌びやかに着飾った女性の姿が多いのは、右手側の席。
洗練されたダークスーツが多いのは、左側の席。


そして、私は……。


「沢木萌(さわきめぐみ)サン」


私の目の前で聖書を手の平に載せた黒衣の神父さんが、私の名前を呼んだ。


鐘の音と痛い視線に気を取られて、この状況から完全に上の空になっていた。


私は今、この教会の中心で、純白のウェディングドレスに身を包んでいる。


ヒロインは私。
これは私の結婚式。
なのに、気を抜いたらボーッと出来るくらい、全く現実味がない。


呼ばれて顔を上げると、どうやら誓いの言葉の返事を求められたらしい。


誓いの言葉に間が空いて、隣からわずかに訝しそうな視線を感じた。


「Yes、I do」


慌てて、大きく息を吸って集中しようとする。
そして、リハーサル通りの一言を呟いた。
< 1 / 224 >

この作品をシェア

pagetop