ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
週明けから、冷たい秋雨が続いていた。


座談会での質問事項の最終チェックをしてもらって、帰る前に急いでメンバーに送信した。
帰り支度を整えてオフィスを出た時、時計は二十時を過ぎていた。


通用口付近に、何人かの行員が立ち止まっている。
今日は雨は降らないって天気予報だったせいか、傘を持っていなくて困っているよう。


バッグの中に折り畳み傘は入ってるけど、畳むのが面倒だから私も出来れば広げたくない。
そう思いながら地上の空を見上げると、結構バカにならない雨足で、私も足を止めた。


駅までは一本道だけど、このまま出て行ったら電車に乗る頃にはずぶ濡れになりそうだ。
諦めてバッグから傘を取り出すと、私の隣を潔く通り過ぎる人影があった。


この雨の中、駅まで走るつもりなのか。
天晴れ。と思いながらチラッとその横顔を見つめて、ドクンと胸が騒いだ。


「あっ……あのっ……!!」


雨が降りしきる都会の闇空の下、私が呼び止めた彼女は、額に手を翳しながら訝しそうに振り返った。
その姿に、慌てて傘を差し掛けながら駆け寄る。


「えっと……? ありがとう。どちら様?」


そう言って、彼女は私に微笑みかけた。
あ、と呟いて、私はシャンと背筋を伸ばした。


「駅までで良ければ、ご一緒しませんか? ……あの、PB室の中谷加奈子さんですよね?
私、広報部の沢木と言います」


私がそう挨拶すると、彼女……中谷さんは目を丸くしてから、ああ!と手をポンと叩いた。


「今度の座談会の……」


そう言って中谷さんは、想像よりもずっとさっぱりした笑顔を私に向けた。
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