ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
探るような視線に晒されて、どうしようもなく居心地悪くて、私は手に持っていたグラスをグッと傾けた。
そして、喉を仰け反らせてゴクゴクと飲み下す。


そうして少し気分を落ちつけて、


「違いますっ!!」


グラスをテーブルにドンと音を立てて戻して、きっぱりと言い切った。


「顔に似合わず頑なだな~、萌ちゃん。なんでそんなに意地張るの」


清水さんは呆れたようにそう言って、苦笑いを私に向けた。


「意地じゃないです。……そんなことになったら、いけないんです」

「……わかんねえ……」


面倒臭そうに呟く声に応えるように、私は再びグラスを持ち上げた。


恋に落ちた、なんて簡単に言わないで欲しい。
そんなこと、私には許されない。
絶対そうならないようにしないといけない。


「……恋をしたら、我儘になるじゃないですか……」


ボソッと小さな声で呟くと、は?と短い声で聞き返された。
私は一瞬グラスの中のサワーを見つめて、そして、グッと強く煽る。


恋は人を我儘にする。不安定にして、弱くする。


もしも私が響さんに恋してしまったら、向ける気持ちと同じ気持ちを返して欲しいって思ってしまう。
そして私がそんな強い想いを抱いたら、私は響さんが求める存在のままではいられなくなる。


「……あ~……。萌ちゃん、大丈夫……?」


不安定に揺れる心をどこかに追い遣ってしまいたくて、私は清水さんが止めるのも聞かずにグラスを重ねた。


そして……。


「……絶対に、恋じゃない……」


私を呼ぶ清水さんの声を遠くに感じながら、私の意識はプツリと途絶えた。
< 125 / 224 >

この作品をシェア

pagetop