ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
それを見て、私は身体の脇に垂らした手をギュッと握り締めた。


「私だって、仕事頑張ってます」

「ああ、そ。じゃあ、勝手にしろ」


響さんは不機嫌を隠さずにそう言い捨てると、髪を掻き毟るようにしながら自分の部屋に戻って行った。
バタンと大きな音を立ててドアが閉められる。
そして少しの時間の後、再び出て来た響さんは、すっかり外出支度を整えていた。


「え、あの……」


フイッと背を向けて玄関に向かう響さんに思わず声を掛けると、出掛ける、と短い声が返ってきた。


「せっかくの休日なんだから、好きに過ごせ。ああ、メシの心配とかしなくていいから」

「えっ、響さんっ……」

「行って来ます」


追い掛けようとする私をシャットアウトするように、響さんは冷たく背中でそう言った。
私はそれ以上追い掛けられない。


バタン、と玄関のドアが閉まる音がした。


その音を寂しい気持ちで聞きながら、私は自己嫌悪でいっぱいになる。


何言ってるの、私……。


響さんを怒らせて当然だ、と思った。
心配してくれたんだから、当然だ、って。


それでも、どうしても素直になれなかった。


これも全部、こんな風に私を掻き乱す響さんのせいだから、って。


自分の心を無理矢理肯定して、私は一度俯いてグッと涙を飲み込んでから、これからやることを必死に考えた。


洗濯。掃除。買い物。
洗濯、掃除、買い物……。
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