ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「ど、どうして?」


胸がチクッと痛んで、私は響さんの広い背中を見つめた。


「別に無理して変わろうとしなくていい。今のままで構わないから。
……そんなんじゃなくて、俺は……」

「……響さん」

「家事も全部一人で背負い込むことない。もちろん、助かるんだけど」

「……はい」


顔を俯けて、膝の上でキュッと手を握り締めた。
私の返事を聞いて、響さんは一歩足を踏み出した。


「……悪い。俺、昨夜飲み過ぎて……。頭痛するから、もう少し部屋で休むな」

「あ……、じゃ、何かお薬……」

「いいって。気にするな」


響さんは早口でそう言って、私に視線を向けずに自分の部屋に戻って行った。


その背中がドアの向こうに消えるのを見送って、強張った身体から一気に力が抜けて行くのを感じた。


無理して変わろうとしてる、か……。


無理、してるように見えるのかな。
変わろうとしてるのは確かだけど、私はそうやって頑張るのも楽しんで来たつもりだった。
だって、頑張った分だけ響さんのそばにいる自信に繋がるような気がしたから。


今のままの私じゃいけないって思うのに、それでいいなんて言われたら……。
それなら私はどうしたらいいんだろう。
響さんのそばにいる為に、どんな自分でいればいいんだろう。


膝の上に肘をついて、私は両手で顔を覆った。
そうして、答えが見出せないジレンマに、深い溜め息をついた。
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