ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
愛されたいと思う理由
シーソーのようにグラグラ揺れる気持ちの正体に、全く辿り付けない。
顔を俯けて、唇をへの字に曲げて、私は爪先で地面を蹴り上げながら歩いた。


響さんから逃げて来て、どのぐらい歩いただろう。
動物的な本能のまま、南に進路を向けて歩いたせいか、突き当たった道路の先にパアッと海が開けた。


いきなり広がる青が、一瞬にしてちょっと懐かしくなってしまった思い出に被る。


響さんとハネムーンで行った、ニューカレドニアの海。
そりゃ、あっちの方が全然綺麗だったし身体に吹き付ける潮風も優しくて熱くて、こんな冷たくて雨が混じる物じゃなかったけど……。


思考が先走って、私は初めてポツッと頬を打つ雨粒を意識した。
え?と慌てて顔を上げると、自覚したが最後、とでもいうように、更にポツポツと打たれる。


嘘、と思った時には、あっと言う間に強まった雨が道路を濡らし始めていた。


腕を額に当てて雨避けにしながら、慌てて駆け出す。


海沿いの国道じゃ雨を凌げる場所がない。
それでも辺りをキョロキョロ見回して、ようやく古いバス停の狭い屋根の下に駆け込んだ時、もう私は全身ずぶ濡れだった。


ぺったりと頬に張り付く髪が邪魔で掻き上げた。
そして、そおっと顔を出して、どんよりと暗い空を見上げた。


なんだかどんどん暗くなっていく。それに伴って、さっきより気温も急激に下がったような気がする。
小さくぶるっと震えて、私は無意識に二の腕を手で擦った。


雨足は一向に弱まる気配がない。
ずぶ濡れの身体には、容赦なく海風が吹き付ける。


思わず、寒、と短く呟いた。
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