ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
勢いに飲まれて声を飲み込む私から、響さんは少しだけ目を逸らした。


「あれは、違うんだ……。俺は、恋愛のプロセス何も踏まない状態で、萌に一生を誓わせたくなかった」

「……え?」


何を言われたのかわからず、私は何度か瞬いた。
響さんはキュッと唇を噛んで、ゆっくりと私に視線を戻した。


「付き合おう、って言うより先に結婚なんて言い出した俺が悪いのはわかってる。そうやって、萌から、俺以外のヤツと恋する未来を奪ったんだ。
……だけど、あんな人前で、他人を証人に誓いのキスなんかしたら……あれで恋は終わりみたいじゃないか」


響さんの言葉がなんだかとても難しい。


だけど、とても優しい想いを語られているような気がして、私はただ、響さんの次の言葉を待つ。


「俺はまだ、萌の心、手に入れてない。そうわかってるのにセオリー通りの誓いなんかしたくなかった。
……ゆっくりでいいから、萌にちゃんと俺のこと好きになって欲しかったんだ」


私の見上げる目と鼻の先で、響さんが俯いて声を振り絞っている。
切なげな声を聞いているだけで、鼓動は大きく鳴り響く。
この非常階段の狭いスペースに、響き渡ってしまうんじゃないかと思う位に。


「俺は、親父を利用して萌に近付いた。
あの空き巣事件の後、ずっと萌が気になって仕方なかった。
あまりに危なっかしくてほっとけなくて……俺のそばに置いて、俺の手で守りたいって思った」
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