ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「あ、あの……」


思わず上擦った声で呼びかける。
響さんは、チラッと私を振り返ってから、自分の部屋のドアに手を掛けた。


このマンションで生活を始めて一ヵ月の間、ほとんど足を踏み入れたことのなかった響さんの部屋。
そのドアを、響さんは私を誘うように大きく開け放った。


「萌、今夜はこっちにおいで」


小さく首を傾げながら私の反応を待つ響さんに、ドキンと大きく胸が騒いだ。


『今夜はこっちに』


その意味を理解して、途端にカアッと顔が熱くなった。


「あ……」


立ち尽くしたまま、一瞬、身体が強張った。
腕を取られたまま、その一線を越えることに躊躇う。


「萌」


響さんの声が、私の名前をとても優しく呼んだ。
その声に導かれて、私はおずおずと響さんを見つめる。


「お前が嫌がることはしないから」


少し焦れたような、どうしようもなく優しい瞳を私に向けて。
響さんの想いが私の身体を包み込む。


迷う必要なんかない。
響さんが私を求めてくれるなら、私だって……。


そんな恋情に突き動かされて、私は思い切って一歩踏み出した。
そして、その胸に飛び込む。


「……触れて下さい。私に」


恥ずかしさを押し殺して、湧き上がる想いに素直になって告げた後。
私の背中でドアが閉められた。
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