ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「はあ!? ちょっとめぐ、本気で言ってるの!?」

「だから、寝室は別でいいの。だって、その……そういうことする必要ないんだし」

「ちょっと、めぐっ。簡単に言うけど、あんたはそれでいいの?」


なんだか憮然とした表情で、美砂子は私の顔を覗き込む。


「そりゃ、めぐは倉西さんの恋人ってタイプじゃないけど。嫁だよ? 妻だよ? 奥様だよ?
いくら倉西さんでも、愛情抱いて大切にしようって思ってるはずで……」

「それは、好きって気持ちじゃない」


そう言い切った私に、美砂子は言葉に詰まって絶句した。


この先、響さんが私に愛情を向けて大事にしてくれたとしても、それは同情とか憐憫とか慈悲とかそういう物でしかない、と思う。


結婚して夫婦って関係から始まった私達は、この先何があっても恋人にはなれない。
少しでも恋情が生まれたりしたら、響さんが求めるものとの間に大きな齟齬が生じる。


だから、愛さなくていい。愛される必要もない。


「……だったらせめて、年取っておじいちゃんになった倉西さんと、縁側で一緒に日向ぼっこ出来るような、可愛いおばあちゃんになりたいな」


言いながら、そんな姿を想像した時、ランチプレートが運ばれてきた。


「まだ二十五なのに、おばあちゃんになりたいなんて言わないでよ……」


首を振りながら深い溜め息をつく美砂子に、ちょっとだけ微笑んで見せる。
そして、彩りのいいプレートを目にして、私は無理矢理テンションを上げた。


「わ~美味しそう! 美砂子、食べよ食べよっ。いただきま~っす!」


両手を合わせてそう言って、私はフォークでサラダを口に運んだ。
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