ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
『妻も会いたがってたから、今度は週末にでもうちに来なさい』


私にそう笑顔を向けたお義父様に、御馳走様でした、と頭を下げた。
お店の前で手を振って去って行くお義父様を見送って、その姿が見えなくなってから、私と響さんはほとんど同時に溜め息をついた。


「……日焼けか。盲点だったな」


私の隣でボソッと呟く響さんに、私も、はい、と答える。


「確かに、ビーチリゾートだったのに不自然でしたよね。一度くらい一緒に海に行っておくべきだったかもしれません」


そう返事をした時には、響さんは既に先にエスカレーターに向かって歩き出していた。
私も慌ててその後を追う。


「海には行ったろ」

「そういう意味じゃなくて、一緒に泳ぎに、って意味で……」


そう呟きながら下りのエスカレーターに足を踏み出すと、一段下から響さんが私を振り仰いで来る。


「……それって、水着で、ってこと?」

「え? はい。だって、泳ぐとなったら……」


他に何を着ろと言うんだろう。
答えながら首を傾げた私から視線を外して、響さんは真っ直ぐ進行方向を見つめた。


「それは無理」

「えっ!? どうして……って、あ。もしかして、響さん……」


言ってるうちに答えがわかった気がする。
私は少しだけ腰を曲げて、響さんの耳に内緒話するように顔を寄せた。


「響さん、泳げないんですか?」

「……は?」
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