ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
言った途端に、ものすごく不機嫌な顔でギロッと睨まれた。


綺麗な顔は、怖い顔をすると妙に迫力がある。
私は即座に姿勢を正して、すみません、と謝った。


「言っとくが、俺は高校の臨海学校で水泳部員を差し置いて、遠泳で優勝した男だぞ」

「凄いじゃないですか! 私、二十五メートルが精一杯です」


素で驚いて声を上げると、一度真っ直ぐ前に向いた視線が、再度私に戻って来る。


「お前、もしかしなくても俺のことバカにしてる?」

「え、ど、どうしてっ……」


あまりの言い草に、思わず身を乗り出した。
一つ下のフロアに先に踏み出した響さんは、もう振り返ることなくスタスタと歩いて行ってしまう。


「あ、あの、響さん……」


慌てて小走りに追い掛けると。


「萌」


鋭く冷たい声で呼ばれた。
嫌でも背筋がピンと伸びる。


「俺、ちょっと寄るとこあるから、ここから別行動。一人で戻れ」

「え?」


言われたことの意味が一瞬わからなくて、私は何度か瞬いた。
そして、やっとそこに気付く。
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