ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
冷静になってみれば、今、響さんと一緒にいる私にも、刺さるような視線を感じる。


その視線の先を探して振り返ると、綺麗に着飾ったOLのグループが、なんだかすごくわざとらしくサアッと顔を背けるのが見えた。


注目されるのは、オフィスにいる時だけじゃない。
こうやって外で響さんと一緒にいる時でも、見られる理由は同じだ。


「わ、わかりました。先に戻ります」


そう言って、ろくに顔を見ることなく、私は響さんに頭を下げた。
更に下に向かうエスカレーターに、一人で足を踏み出した。


響さんはフロアに立ち止まったまま、私が遠退いて行くのを見送っている。
それがわかったから、振り返らなかった。


そりゃ、私と一緒じゃ恥ずかしいよね。


知ってる人でも知らない人でも、響さんの隣を歩く私を見て、似合わないとか不釣り合いだって思う人が大半なんだから。


私達を知ってる人とすれ違うはずのない遠い南国のビーチリゾートでも、私と響さんは食事以外はほとんど別行動だった。
『のんびり出来る』ビーチリゾートを選んだのは、ただの観光地じゃ一緒に行動せざるを得ないからだった。


本拠地とも言えるこのオフィス街で、並んで歩くのは最小限に抑えたい。
そんな裏事情が怖いくらい見抜けてしまって、私はただ急いで響さんとの距離を開いて行った。


私と響さんは恋人じゃない。
そういう感情を既に失くした熟年夫婦。


自分にそう言い聞かせながら。
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