ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
人の噂は七十五日。そのうち飽きるよ、と美砂子も笑うけど。
響さん絡みの話題は、いつまで経っても下火になることはないんじゃないかと思うくらい、根深い。


響さんとの結婚を部長に報告して、情報が漏れ始めた頃から。
女性が集まる場所に後から行けば、九割方私と響さんの噂話に出くわす。
おかげでもういくらか免疫もついて、最初の頃のようにビクビクしなくなった。


「ねえ、今日の昼間ね、見ちゃった」


どうして社会人の噂は、いつもこうも狭いところから発信されて、拡散していくんだろう。


来客対応を頼まれて給湯室に入ろうとした私は、さすがに足を止めざるを得なかった。


噂の内容のレパートリーは大体パターン化してるから、聞き流すことは出来る。
でも、そこにズカズカ入って行けるほどの強さは、まだない。


「なんかすごい品のあるおじさんと、三人で食事してたよ」


ほんと、どこで誰の目が光ってるかわからない。
今となっては、全く知らない人にすら名指しで噂されるのに、何をどう気を付けていいんだか。


ここまで来るとお手上げだよ、と思いながら、私も一層気を引き締めないと、と肝に命じる。


響さんと二人で外を歩いたりしたらいけない。
響さんが気にする前に、自分で気付くくらいじゃないといけなかった。
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