ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
洗濯物を干し終えて、響さんに言われるがままに着替えをしてリビングに戻る。
あの、と躊躇いながら声を掛けると、響さんはチラッと私に軽く視線を向けた後、ソファから立ち上がった。


「行くぞ」

「はい?」


何事?と焦りながら後を追うと、響さんは私に背中を向けたまま、パンツのポケットから車のキーを取り出して指先で揺らした。


「え、ど、どこに行くんですか?」


お出かけはダメって言ったのに。
廊下の途中でピタリと足を止めて立ち尽くす私を、玄関で靴を履き終えた響さんが振り返った。


「お前が疲れてるなら、部屋でゆっくりもいいかと思ったけど、大丈夫なんだろ」


パンツのベルトホールに指を引っ掛けて、響さんが私を鋭く見つめている。
私は立ち尽くしたまま、どうすべきか、と目線を足元に落とした。


「こんないい天気の日に、ずっと部屋にこもってると、身体もなまるし気分も鬱ぐ。
それに、お前のことだから家事だなんだって無駄に張りきろうとするだけだろ。
そんなの、平日より疲れる」


静かな声が玄関に響く。
それでも私は黙ったままだ。


「それとも、俺と出かけるのがそんなに嫌か?」

「そんな……違います!」


探るような言葉には即座に反論した。


「じゃあ、なんで?」

「だって。……誰かに見られたら」


言い淀んだまま、その先は尻すぼみになって消えた。
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