ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
デートって言葉を口にするのすら躊躇いながら、俯き加減にそう言うと、私の前を歩いていた響さんがピタッと足を止めた。
そして、はあ?と呆れた顔で振り返る。
私は慌ててブンブンと首を横に振った。


「い、いえ、すみません! 忘れて下さい。ただの戯言です」


失言を必死に打ち消しながら誤魔化して、焦りながら取って付けたように笑って見せた。
響さんは軽くそっぽを向いて、再びエレベーターホールに歩を進める。


その後を追いながら、私は深呼吸して気持ちを落ち着かせた。


天気のいい休日にドライブなんて、本当にデートっぽいしデートみたいだけど、そこを深く考えちゃいけない。


うん、ただのお出かけ。
ちょっと近所にお散歩、くらいの感覚でいなきゃ。


自分にそう言い聞かせた時、背中を向けたまま、響さんがボソッと呟いた。


「……なんでそれがいけないんだよ」

「え?」


小さな声が聞き取り辛くて、私は顔を上げて聞き返した。


エレベーターの前で下向きのボタンを押してから、響さんが深い溜め息をついた。


「……何でもない」

「……?」


見上げた横顔が、なんだか不貞腐れたように不機嫌だったから、私はそれ以上聞かずに黙り込んだ。
やがてエレベーターのドアが開いて、私も響さんも黙ったまま乗り込んだ。
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