ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
頭から布団を被って、ベッドの上で身体を小さく丸めた。
ドアの外から、私を遠慮がちに呼ぶ声が聞こえる。


「……お~い。萌、風呂空いたぞ」


小さくドアをノックする音。


「萌? 萌、って」


何度呼ばれてもノックされても、動ける訳がない。
顔は火照って熱いし、心臓はあり得ないくらいのスピードで打ち続けているというのに。


「……おい、開けるぞ」


一瞬の沈黙の後、焦れたような声が聞こえた。
同時にドアが開いて、私はハリネズミみたいに身体を丸めたままで硬直した。


「……風呂、入るんだろ?」


身じろぎしない布団の塊を見下ろしているのか、響さんは小さな溜め息を漏らした。


「言っとくけど、俺はちゃんと萌に声掛けたからな。いきなり入って来られて驚いたのは俺の方なんだけど」


だったらなんでそんな平然と私に声を掛けられるのっ!?と心の中で叫んで、勢いでガバッと顔を上げた。


まだ濡れた髪。部屋着姿の響さんと、ハタッと目が合ってしまう。
途端に、ますます顔が熱くなって、私は再び頭から布団を被った。


無理。
真っ直ぐ顔を見れる訳がない。


だって、本当に全部見られた。私の身体、全部見られた。
あまりの恥ずかしさに、響さんをまともに見られない。
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