ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
あんな美人が彼女だったんだもん。
ううん。それだけじゃなく、響さんの周りには同レベルの美女が今までわんさかいたはずだった。


そりゃ、私がどんなに恥ずかしがっても、私の裸なんて脳内消去されるレベルだ。


言い返すことが出来ずに口を閉じる私の頭を、響さんが軽く身体を捻って振り返りながら、ポンと軽く叩いた。


そして。


「……誰が消すか」


そう一言呟いて、スプリングを軋ませて立ち上がる。


「えっ……?」


思わず聞き返す私に、響さんは背中を向けたままドアに向かって行く。
そして、小さくドアを開いてから、小さな声で言った。


「俺、無駄に記憶力いいから。一度目に焼き付いたものは、そう簡単に消せないんだよ」


早口でそう続けると、響さんは振り返らずに私の部屋から出て行った。


「……っ……」


その背中を見送って、一瞬呼吸を忘れていた自分に気付いた。


ヒュッと音を立てて酸素を胸に取り込むと、途端に心臓が激しく動き始める。


そんなこと言われたら、私だって意識してしまう。
一瞬にして焼き付いて、見惚れてしまった響さんの身体が、頭の中で妙に鮮明になっていく。


――どうしよう。


私はベッドにうずくまったまま、必死に自分の身体を抱き締めた。


ドキドキする。


ドキドキする……。
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