笑顔、こもれび。


そういうのに気づく度、私はくるしくなる。やるせなくなる。

この感情をどこに持っていけばいいのか、今の私にはわからなかった。







ついに声に出してしまったのは、次の週の水曜日だった。

いつものように自習室で、シャーペンを動かしていて。

ふと顔を上げて見えたのは、文庫本から目を離して窓の外を見つめる、夏目くんの姿だった。


「....いわなくて、いいの?」


自分でも驚くほど、自然に口からこぼれた。

夏目くんは目を見開いて、こちらを向く。

「朝木さん、もうすぐ引っ越しちゃうんでしょう」

正直、言おうかどうか迷ったけど。

中庭を見つめる彼の瞳には、日に日に切なさが増していくから。

....やっぱり私はこのまま、黙ってもいられなかった。


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