笑顔、こもれび。
そういうのに気づく度、私はくるしくなる。やるせなくなる。
この感情をどこに持っていけばいいのか、今の私にはわからなかった。
*
ついに声に出してしまったのは、次の週の水曜日だった。
いつものように自習室で、シャーペンを動かしていて。
ふと顔を上げて見えたのは、文庫本から目を離して窓の外を見つめる、夏目くんの姿だった。
「....いわなくて、いいの?」
自分でも驚くほど、自然に口からこぼれた。
夏目くんは目を見開いて、こちらを向く。
「朝木さん、もうすぐ引っ越しちゃうんでしょう」
正直、言おうかどうか迷ったけど。
中庭を見つめる彼の瞳には、日に日に切なさが増していくから。
....やっぱり私はこのまま、黙ってもいられなかった。