笑顔、こもれび。


「今はもう絶版になってて手に入らない本なんだけど、引越しの整理をしてたら、書斎から出てきたんだ」


せっかくだから、と彼女は言う。

「...そう、なんだね。夏目くんならきっと、一生大事にするよ」

「あはは、一生なんて」

大袈裟なんかじゃないよ。

そう言いたかった。きっと彼は、大事にする。絶対に、いつまでも。

「夏目くんのおかげで、あいつと話し合う勇気が出たから。お礼をしたくて」

そう言った彼女の顔は、晴れやかだった。

ちゃんと仲直りできたのだろう。

私は「よかった」と、心から笑いかけた。

それから最後に連絡先を交換しあってから、私たちはお別れした。






その日の放課後。

ふたりで自習室に入って、いつも通り鞄から文庫本を取り出そうとしている彼に、声をかけた。


「これ、朝木さんから」


黒ブチメガネの向こうにある瞳が、見開かれる。

差し出された単行本を受け取って、彼は装丁を眺めた。


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