笑顔、こもれび。
「今はもう絶版になってて手に入らない本なんだけど、引越しの整理をしてたら、書斎から出てきたんだ」
せっかくだから、と彼女は言う。
「...そう、なんだね。夏目くんならきっと、一生大事にするよ」
「あはは、一生なんて」
大袈裟なんかじゃないよ。
そう言いたかった。きっと彼は、大事にする。絶対に、いつまでも。
「夏目くんのおかげで、あいつと話し合う勇気が出たから。お礼をしたくて」
そう言った彼女の顔は、晴れやかだった。
ちゃんと仲直りできたのだろう。
私は「よかった」と、心から笑いかけた。
それから最後に連絡先を交換しあってから、私たちはお別れした。
*
その日の放課後。
ふたりで自習室に入って、いつも通り鞄から文庫本を取り出そうとしている彼に、声をかけた。
「これ、朝木さんから」
黒ブチメガネの向こうにある瞳が、見開かれる。
差し出された単行本を受け取って、彼は装丁を眺めた。